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明月能

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毎年大阪の高槻市で催される「明月能」。
能楽堂ではなく劇場開催なので
能鑑賞が初めての私には、敷居が低く気軽です。

番組は
仕舞 片山幽雪さん   「実盛」
狂言 野村萬斎さん  「名取川」
能  片山九郎衛門さん 「葵上」




「実盛」
斉藤実盛73歳の時、篠原合戦。
髪を黒く染め華やかな錦の直垂で、若やいで討ち死をする。
お年召した人間国宝、片山幽雪さんの仕舞。
討ち死にする時の実盛の力強さや覚悟にハッとしました。
短い仕舞の実盛でしたが、
人生の最期をどう締めくくるか、美学があるのだと感じました。

「名取川」
自分の名前をすぐに忘れてしまうお坊さんの話。
忘れないよう、名前を袖に書いてもらいます。
川を渡る時、袖が濡れ名前が消えてしまいます。
名前がなくなった!と思うお坊さん。
川をさらい名前を探します。
通りかかった人に川の名を聞くと「名取川」。
その人の名は「名取の某」と云う。
名前を取られたと思い込んだお坊さんの
勘違いがまた笑いを誘います。

野村萬斎さんの清々しく可笑しい狂言。
舞台に彼1人立つだけで華があって綺麗。
なのに一度動き出すと役の可笑しさに
観客が声を出して笑っていました。
本当に惹き付けられる役者さんでした。

「葵上」
源氏物語のお話。
知的で美人の六条御息所は
年下の美男子、光源氏と契りを交わします。
その後、光源氏の若い正妻、葵の上が身籠ります。
つれなくなった光源氏を一目見ようとした葵祭で
葵の上と車争いをし、敗れます。
嫉妬心や恨めしい思いに火がついたようです。
そんな自分を恥ずかしく思う御息所でしたが、
生霊として憑き、葵の上は床に伏せてしまいます。
巫女が生霊を呼び出す場面から始まります。
憂いを含んだ表情の御息所は、
小袖で現される葵の上の傍で思いを語ります。
小聖が来て祈祷の際、憂いの泥眼から
鬼の般若面に変わって登場するところでは
息を吞むものがありました。

幽霊が出てくるときに云う「うらめしや」
本当に怨めしいという言葉がピッタリくる六条御息所でした。
以前に十善戒について調べているとき
殺生とは生き物をむやみに殺すことだけではなく、
恨んだり憎むことも殺生だというのを読んだ事があります。
この「葵上」の生霊を観ている時、そのことを思い出しました。
見えないけれども意識というのは、大きな力があるのかもしれません。


音と人声と能面の調和、観る側との一体感が感動的でした。
鼓の音はどれも体内まで振動させますし、
シテやツレの謡に地謡と立体感のある人声が響きます。
能面というのが如何に大切な役割を持っているのかも分かりました。
顔という個性がなくなるのは、観るものに大きな印象を与えます。
演者を打ち消し、能面が命を持って人に宿っているような
人を人で無くしてしまう力があるように思います。
また動かないはずの表情も、細やかに動いて見えました。
幽玄といいますが、その要は能面にあるようにも思いました。
能の本を何冊も読みましたが、どの本にもまず観ることとあります。
その意味がやっと分かって、すっかり魅了された夜でした。
あまりの感動で能や狂言にハマってしまいそうです。

それにしても気品ある御息所の心の内、
憂いから鬼になってしまう哀しいものです。

雲上の花の宴、春の朝の御遊に馴れ
仙洞の紅葉の秋の夜は、月に戯れ色香に染み
花やかなりし身なれども、衰へぬれば朝顔の
日影待つ間の有様なり、ただ何時となき我が心、
ものうき野辺の早蕨の、萌え出で初めし思ひの露
かかる恨みを晴らさんとて、これまで現れ出でたるなり
by smile-sweet | 2011-11-13 22:00 | ART


口の端が上がるのが好き。


by smile-sweet

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